新・地震学セミナーからの学び
50 大地震に伴う地電流の発生原理
大地震の前にかなり大きな地電流変化があることは事実のようで、ギリシャで採用されているVAN法の根拠にもなっています。日本でも、関東大震災の数時間前に仙台で地電流の変化が観測されたという次のような記事が「地震学百年」に載っています。

「関東地震の後、地震の前兆としての地電流が学会の大きな話題となった時代がある。事の起こりは、東北帝国大学の白鳥勝蔵が仙台市内で地電流の観測をしていたところ、たまたま大正十二年の関東地震の数時間前から大きな地電流変化が現れたのである。このことが報告された結果、地震と地電流の関係が大きくクローズアップされた。」 (参考:セミナー[783])

しかしこの知見は後述するように、なぜかその後の地震研究には生かされてこなかったようです。

ANS観測網で推奨しているオイル入り100円コンパス
「地震学百年」:萩原尊禮著、東京大学出版会

「地震は予知できる」:坂柳義巳著、近代文芸社

ANS観測網ではコンパスの異常を観測する方法を中心にしていますが、なぜコンパスに異常が発生するかというと、大地震の前には上述したように局所的に地電流が流れ、その電流の周囲に磁界が形成されるために、方位磁石に狂いが生じるはずであるというのがその根拠です。

では何故地電流が発生するのかという理由についてですが、ANSではこれまで、地電流が流れる理由として、坂柳先生も主張されておられますような、岩盤にマイクロクラックが発生するときに流れるのであるという立場に立って説明してきました。(セミナー[159] [688] [636] [844]など・・)

しかし、もうひとつの可能性として、熱解離してできる酸素と水素の混合ガスが、イオン化したプラズマ状態であると考えると、MHD発電による電流の発生というケースがあることが分かります。

MHD発電とは図にありますように高速プラズマ流が磁界を横切って流れると、プラズマ中に電流が発生し、その電流を取り出して利用しようというものです。

また、プラズマとはどのようなものかというと、次のような解説があります。

出典:http://totoro.ele.tottori-u.ac.jp/text/mhd.html 
MHD発電:別名を電磁流体力学発電といい、ファラデーの電磁誘導の法則を用いて行う発電。MHDは Magneto-Hydro-Dynamics の略。

プラズマとは

「温度が上昇すると、物質は固体から液体に、液体から気体にと状態が変化します。気体の温度が上昇すると気体の分子は解離して原子になり、さらに温度が上昇すると原子核のまわりを回っていた電子が原子から離れて、正イオンと電子に分かれます。この現象は電離とよばれています。そして電離によって生じた荷電粒子を含む気体をプラズマとよびます。」

自然界のプラズマ

「自然界には、地球のエネルギーの源である太陽、それから吹き出す太陽風、地球を取り巻く電離層、極地の空を彩るオーロラ、真夏の積乱雲から走る稲妻等、様々な形のプラズマが存在しています。また夜空にちりばめられた数々の恒星に加えて、星と星の間の空間にも希薄なプラズマがひろがっており、宇宙を構成する物質の 99% 以上がプラズマであるといわれています。」

(出典:http://p-grp.nucleng.kyoto-u.ac.jp/plasma/

以上の解説から解るように、解離したガスはプラズマ状態であることは容易に想定されますが、このプラズマがマグマの流れる通路内部を高速で移動するとすればMHD発電の理屈によって、電流が発生することが考えられます。

(参考:http://www.kagaku.info/faq/water000204/index.htm

大地震の前には、解離した解離ガスの高圧力が液体マグマを排除しますので、気体としての解離ガスプラズマがマグマの通路を高速で移動し、地球全体が発する磁場のなかで、MHD発電を起こしている・・・これが、大地震の前に地電流が流れる理由ではないのか、と考えられます。

これまで採用してきたマイクロクラック発生時に岩盤を通って電気が流れるという視点よりも合理的な地電流発生理論のように思われます。

ところで、関東大震災の数時間前に仙台で観察された地電流現象の研究がどうして地震学者の研究テーマから無くなってしまったのでしょうか。「地震学百年」には次のような記述が続いています。

「しかし地震と地電流の関係は、その後多くの人の研究によりこの時代に期待されたような安易なものではないことが次第にわかってくる。」

期待されたような安易なものではないというのは、「中小規模の地震では地電流の変化がない。」ということから結論されたこと、なのではないでしょうか。MHD発電の原理を考えれば、中小の地震では発電がなされないことは容易に推定できます。大規模爆発・大規模地震でなければ地電流が起こらないのは当然だと思います。

中小規模の地震までも予知出来なければ地震予知の手法として採用できない、というような学者特有の拘りが原因で「この時代(昭和初期)に期待されたような安易なものではない」という結論になっているように思えてなりません。

しかし必要なのは人命が失われるような大地震を予知して悲惨な出来事を回避する事のはずです。地震学者は関東大震災直前に仙台で観測された地電流変化をもう一度思い起こして、地電流の変化、MHD発電に伴い発生する電気的予兆を真剣に研究し、地震の予知に生かしていただきたいと思います。

右図は昭和8年発行の「地震」(鉄塔書院刊)に和達清夫先生が述べておられる大地震のまえの地電流変化です。

抜粋して紹介します。

特にここに大切なことは、地震が勃発するより少し前に地電流の方が何か地震の勃発を暗示するような兆侯を見せてくれるかどうかという点にかかる。この方面の観測は近頃能登氏が著しい例を示されている。図(昭和5年10月17日の石川県大聖寺の地震とあります。)に示したのは、地中電流の突発的変化が地震の前二時間頃から始まっている例である。

すなわち地電流が平時より急に増加し始めて二時問位経って大きい地震が二回続けて起った。そして地震後地電流はまた平常に返っている。この例が単なる偶然であれぼそれまでのことであるが、もしこの地電流の変化が、地震がこれから起るという、地殻内の緊張から生じたものであるとすると、地震が勃発しない前に、これから後で地震が起こるかもしれないぞという警戒を地電流が与えることになる。もちろん今までの結果だけではまだ断言するには到つていないが、将来この方面の研究がさらに進んで、時間だけでなく、どこそこに地震があるだろうと場所まで予知出来るとしたらどんな素晴らしいことだろう。しかし何と言つても前途は遠いがなにかこの方面に光明のようなものが見えて嬉しい。

さらにこの方面に関連して、地震と地球磁気との間にいかなることがあるかという間題である。地球磁気というのは、地球全体がちょうど大きな磁石のようなものでそのために地球付近一帯に磁場が出来ているその磁場の強さを表わすものである。すなわち我々が持っている磁石が北を指すのはこの地球磁気あるがためである。この地球磁気、あるいは略して地磁気とも言うが、地磁気と言うものは、その強さや方向がいつも少しずつ変化しているもので、その著しい時は特に磁気嵐などという言葉で呼ぼれている。地磁気の変化は上層大気の状態に大いに関係があるが、一方また前の(前述した)地電流とも大(大いに)関係がある。それに地震ともまた何か関係がありはしないかということは随分昔から学者によって気をつけられていた問題である。この頃また大分この方面の研究が盛んに行われ、ある程度の地震との間の関係が探り出されて来たのである。ここには詳しいことは省略するが、将来は地磁気もまた地電流と並んで地震学中の一部を占めるようになると思われる。

以上が抜粋記事です。

和達先生は「光明のようなものが見えて嬉しい。」「将来は地磁気もまた地電流と並んで地震学中の一部を占めるようになると思われる。」などと述べておられるのですが、その後の地震研究は測地学的な方面にばかりすすんで、先生が期待されたような電磁気的方面へは関心が薄れてしまったようで残念なことです。

薄れてしまった原因は地震学会の重鎮達の誤解にあることを国会答弁の資料に基づいて解説した記事が東濃新報に載せてあります。