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52.大陸移動説と唱える大家の豹変



 「地球の科学」〜大陸は移動する〜 と言う書物の最後の結びの言葉(p.238)で、著者ら(竹内均、上田誠也)は次のように述べています。

カナダ、トロント大学のウィルソン教授は、かつては、地球収縮説の大家であった人だが、数年前に突然、地球膨張説を支持して世を驚かせたことがある。そのウィルソン教授は、ここ一年ばかり、またもや、その所説を豹変して、熱烈な大陸移動論者になって、再び話題をまいている。ウィルソンが雄弁に主張し、解説している大陸移動説は、今日、多くの証拠から支持者のふえてきた、マントル内対流による移動説を集大成した、代表的なものと思われるので、ここで、それを御紹介し、長かった本書の大陸移動説史にケリをつけさせていただこうと思う。』

 この今は大陸移動説を唱える地球物理界の大家ツゾー・ウィルソン、オンタリオ・サイエンス・センター所長と科学雑誌ニュートン編集長竹内均、元・東大教授の対談が「生きている地球」というグラビア誌に載っていましたので紹介します。

竹内:日本海溝から日本列島の下にもぐりこんだ太平洋プレートはどうなるのでしょう。世界中のどこでも、700キロメートルをこえる深さでは地震がおこっていません。これはそれより深いところへはプレートが侵入しないことを示しているように思われるのですが。

ウイルソン:そこでどういうことがおこっているのかは,現在のところだれもいえないのではないですか。

竹内:私自身は日本列島の下へもぐりこんだ太平洋プレートがそこに蓄積しその上にある日本列島を隆起させていると考えています。かつてこれについてちょっとした計算をしてみたことがあるのです。隆起速度は年に約ミリメートルとなり話のつじつまは合うようなのですが。

ウイルソン:それはたいへん面白い考えです。私はなんだかそういうことがおこっているような気がしてきました。

[解説]

 大陸移動説の守護神のような存在の大家ウィルソン教授ですが、結構豹変の名手のようです。「なんだかそういうことが起こっているような気がしてきました」といって、地球収縮論者〜地球膨張論者〜大陸移動論者、と繰り返してきた豹変劇を、また演じられるのかもしれません。豹変の多い人の論説がどれほどの間、歴史の検証に耐えられるのか注目されるところです。
                           (石田)

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