新・地震学セミナーからの学び
35 地震空白域ができる理由
笠原先生の「水は地震発生にどう関わっているのか?」と題する東大地震研究所公開講座の資料http://wwweprc.eri.u-tokyo.ac.jp/~kasa2/Openhouse0307
によりますと、地震の空白域ができるのは、その領域の海底深部に柔らかな物質が存在するからであろうと解釈されています。そのような判断をされた観測とは三陸沖にある地震空白域を含む領域(図1に示す)でエアガンによる人工地震を発生させ、その振動波を観測ライン上に配置した地震計によって計測するというものです。資料から抜粋して紹介します。

「このプレートの境目で地震波が強く反射する性質があることがわかりました。
地震波を強く反射する性質はその境い目付近にある物質の地震波速度が急激に変化していることによって生じると考えられます。言い換えますと、そこに地震波速度が周囲に比べて著しく小さな物質(=柔らかな物質)が有ると推定できます。やわらかい物質があると地震を起こしにくくなり地震空白域を作ると解釈できます。」

これを確かめるために図1のような観測ラインを敷いて人工地震観測が行われました。

図1:三陸沖の 観測ラインと海底地形
図2:赤い線が地震反射波の強い部分。地震活動が低い場所と一致する。
図2はその結果を示しています。さらに引用します。

「この図からわかるように、地震波の反射強度が強い部分は地震活動の低い部分(地震空白域)とほぼ一致しています。’96年の結果を総合すると地震波の反射が強い(やわらかい物質がある)場所では地震が起きにくいことが結論できます。すなわち、プレートが沈みこんでも、プレートの境界にある物質が柔らかいために地震が起きにくいことになります。このような物質の候補としては、流体の水か水を大量に含んだ粘土鉱物や蛇紋岩が考えられます。」

つまり、マントルを構成する橄欖岩は水があると簡単に熔融するので、それが潤滑油の役割を果たして潜り込むプレートをスリップさせてしまう、それで地震の空白域ができると云う解釈です。

図3:石田理論による地震空白域の解釈
以上の解釈は石田理論ですとまったく違ってまいります。地震が少ないのはマグマの流れが少なくて解離ガスの発生する機会も少ないからです。つまり安定している領域であると見ることができます。地震多発地帯と言うのは、マグマの流れるチャンネルが人間の毛細血管のように走っていて、解離ガスの発生する機会が多くなるということが原因です。人工地震を起こして観測すると、マグマの流れの少ない地殻と熔融マントルとの境界(これがデコルマの本当の意味だと思いますが)から強く反射してくるのは、固体と液体の密度差が大きいからです。一方マグマの流れるチャンネルが多く走っている地殻では、(地殻とマントルとの)密度差が小さくなりますので当然反射の強度は弱くなります。

以上が石田理論の解釈です。反射が強い部分はヌルヌル滑りが起こっている場所で、反射が弱い部分はがっちりとくっついていて、これがアスペリティーであると言う解釈なのだと思いますが、ある部分は滑らず、ある部分は自由に滑る、などという剛体は存在するはずがありません。

プレートが潜り込んで地震が起こると言うプレート説を離れないと、地震現象ひいては地球そのものの正しい理解が不可能であると思います。