新・地震学セミナーからの学び
53 地震波の伝播経路(走時曲線の考察)
セミナー[1171]では地震波の伝播経路を話題にしました。定説では、地震波が成層構造の固体マントル内部を伝播したとして何分後に地震計に届いたのかをまとめたものを、走時曲線(走時表)と呼んでいます。横軸には距離の代わりに地球中心での角度をとり、縦軸には到達時間を示します。

この関係が下に示すように定説によって計算したもの(左図)と、実際に観測されたもの(右図)とが大変よく一致しています。これをもって、定説の正しいこと、すなわち地震波はマントル内を伝播していることは証明されたことであると考えられているふしがありますが、実測データに合致するように決めているわけですから、基本的には両者が一致するのは当然だと思います。しかし複雑に反射・屈折した波までが計算どおりに観測されると言うのは驚きであります。
石田理論では地殻内部を伝播すると考えていますので、その経路を伝播するとすれば走時曲線がどのようになり、観測値と合うのか合わないのか、今後数値計算に挑戦して検討してみたいと思っています。つまり二層構造の地殻内部を伝播すると想定すると走時表がどのようになるのかを今後調べてみたいと思っています。

ここでは、現時点で私が走時表に関して疑問に思っている点だけを述べてみたいと思います。疑問の根拠は参考に示した記事に基づいた内容も含んでいます。

@PcP、PcS、ScSなど核で反射した波が20〜70度では明瞭に記録されていますが、震央から20度近くの範囲では記録されていません。何故このようなことが起こるのでしょうか。本当に核が存在するのならば、0〜20度にも記録されるはずであると思います。

APPという波は180度でも明瞭に観測されていますが、180度を超えても到達していると思います。と言うことは170度近辺には逆回りしてきた波が図中に左上がりの線として記録されるはずです。何故それが記録されないのでしょうか。

B参考にあるように、核実験による地震波を世界各地のデータから追跡計算すると、爆発点が一致しないということですが、これだけ正確に理論値と実測地が合致するというのに、核実験による震源地がバラバラになると言うのはなぜなのでしょうか。また、遠くの地震でも、近くの地震でも到達時間に誤差が出るのは、不思議な気がします。

深発地震の走時は常に計算値より早く到達するという誤差が発生することが知られていますが、成層構造の認定に誤りがあるのではないかと思います。

C走時表に表された複雑に屈折・反射する波をどのように認定するのかは、作業をしたことが無いので分かりません。下にカムチャッカ半島での地震の一例を示していますが、この記録から各波の到達時刻を認定するのは困難を感じます。参考にも「観測記録からS波の走時を精度よく求めるのが難しい」とありますが認定の誤差は問題にはならないのでしょうか。

D地震波形から読み取りをされていた中川技官の話(註)から推定すると、実測値というのは、多分に理論値に合致するものだけを「恣意的に」認定した結果であるという可能性を感じます。複雑な波形の中から、「恣意的」に選定したデータに基づいて、理論が証明された・・・というのは本当の証明ではないと思います。

参考:この問題は一部の地震波が伝播しているという最新の考え方がニューオフィス66に示してあります。

図ー1 地震波の伝播経路
図ー3 走時表(実測値)
図ー2 走時表(計算値)
図ー4 地震記録の一例
震動記象  カムチャッカ半島でおこった1つの地震をラモント地質研究所で記録して得られた結果。おのおのの線は、円筒上を右から左へ向けて動く連続した螺(ら)線の一部である。2つの相続く点の間の時間間隔が1分を表わす。1という数字で示された最初の振動がP波を示す。それに続いて2および3で示された反射P波がやってくる。4がS波の始まりを示す。それに続いて5、6および7で示された反射波がやってくる。8という点から表面波が始まっている。(別冊サイエンス 特集大陸移動「地球の再発見」日本経済新聞社より)

注:図中の書き込みはHP管理者が行いました。

参考

「新しい地球観を探る」 3.4グローバル地震学より

JBモデルの限界 現在では、地球内部の構造が、地震波の速度や密度の異なる、地殻・マントル・外核・内核などの層に分かれていることは、よく知られているが、この構造モデルは、19世紀末に、ヨーロッパで始められた研究を出発点とし40年近くの歳月を費やして確立されたものである。この間の研究成果を集大成したものが、有名なジェフリスとブレンの走時表(Jeffreys and Bullen、1940 ;以下これをJB走時表と呼ぶ)であり、これに対応する構造モデルは、ジェフリとブレンのモデル(JBモデル)と呼ばれている。

 JB走時表には、P波とS波の走時、すなわち、地震が起こってから、P波とS波が観測点に到着するまでの時間が、震源の深さと震央距離の関数として示されている。この走時表は、世界の標準走時表として受け入れられ、ごく最近まで震源の決定や地球内部構造の研究に用いられてきた。

 しかし、早くも1960年前後から、地震観測所の数が増え、また、観測手段の改良によってデータの精度が向上するとともに、JB走時表の限界が認識されるようになった。

 そのきっかけの一つは、地下核実験の探査の問題である。地下核爆発は、震源の位置と発生時刻があらかじめ分かっている地震とみなせるが、その震源をJB走時表を用いて決定すると、実際の位置とずれることがわかったのである。

 これとは別に、遠くで起こった地震からのP波も、JB走時表の値より2秒ないし4秒も速く観測所に届くことか明らかになってきた。

 そこで、まずP波の走時をより良く説明できるよう、モデルの改訂が行われ、ヘリン(Herrin、1968)によって、新しいモデルとそれに基づくP波の走時表が発表された。このモデルは、その後のP波を用いた研究に、しばしば用いられてき。S波の走時表も、ランドール(Randall、1971)によって改訂されたが、一般に、観測記録からS波の走時を精度よく求めるのが難しいため、P波走時表に比べると不確定な要素が多い。

  一方、個々の地域で観測される比較的近い地震からのP波とS波の走時も、JB走時表と合わず、しかも、その食い違い方が地域によって異なることが、明らかになってきた。そこで、これらの地震の震源を精度よく決めるために、地域ごとに、JBモデルの修正が行われた。

中川技官の話(註):・・・震源距離の遠い波で地球内部を反射、屈折してきた波でどこに到着した波の波形があるのかまったくわからない。
その(判定の)手助けになるのが走時表、これは震源までの距離がわかると、その波の到着時刻が記され。その時間を発震時刻に加えた時刻を記録上で見ると、記録のコントラストが悪く今まで見逃していた記録のゆれの中から地震波の到着波形が見つかります。

技官の回想はセミナー[1175]に紹介してあります。

http://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/~dptech/gihoh/gihono05/nakagawa.pdf

地震波の伝播経路に関してはセミナー[1314][1315]に最新の考え方が示してあります。(2007,9,16)
この問題はレオロジーの解釈を「マントルは熔融物質であるが高圧下では弾性体としても挙動する」 と解釈しなおしています。セミナー[1464]仮説の修正[1465]マントルトモグラフィーの理解に最新の解釈を示しています。


マントル熔融論、S波の伝播問題、レオロジー等に関する最新の見解は [2339]、[2341]を参照してください。