新・地震学セミナーからの学び
48 押し引き分布の形状の違い(浅発地震vs深発地震)
地震時に発生する押し波と引き波の分布形状には、浅い地震と深い地震とで違いがあることが、笠原慶一先生の「地震の科学」(恒星社)に載っています。

少し抜粋して紹介します。

押し引き分布に関してはすでに、ライブラリーやニューオフィスでも説明してありますので、参考にしてください。)
図ー1
図ー2

(四象限型、双曲線型、楕円型などに関して)・・・・つまり初動の押し引き分布といいますが、それに三種類の型式があることになりました。どうしたらこれらの型式を統一して説明できるか研究した末に、次のような考えが提出されました。つまり、震源を中心にもつある大きさの球面を仮定し、その面上に作用する力が図ー1のA図のようなものであるとします。そこから射出される地震波は円錐面の内部で押し波になり、それ以外では引き波になるはず。

その結果地表で観測される押し引き分布は、円錐の中心軸が地表に対してひどく傾いていれば楕円型となり(図ー2の上図)水平ならば双曲線型(図ー2の下図)になります。軸が水平でしかも震源が地表近くにあれば四象限型になることも容易に想像されます。このようにして、いろいろな押し引き分布の型がA図の立場から一つにまとめられたわげですが、深発地震などの場合、むしろB図のような分布の方が適当しているものが少くありません。どうして、ある地震の場合はAになり別の地震でBになるのか判りませんが、近い将来にぜひはっきりさせたいものです。

以上が抜粋ですが、こうした押し引き分布、押し円錐などの解説は、最近の地震学ではまったくなされておりません。「押し円錐」にいたっては「死語」となっておりますが、地震現象を理解するのには大変重要な概念・道具であると思います。ぜひ地震関係の解説書に復活させていただきたいと思っております。

さて「近い将来にぜひはっきりさせたいものです。」と笠原先生が述べておられる件ですが、深発地震の分布形状がB図のようになる理由は、深発地震が熔融マントルの移動によって生じること、そのときの解離ガスの貯留形状が原因していると思います。

右図は「押し円錐」の出来かたを示したものですが、浅い地震の場合には、解離ガスがマグマ溜りあるいはマグマの火道の一部などに貯留されますが、一箇所に集中して貯留されるために震源(C)から一つの「押し円錐」が放射されます。

一方の深発地震では、マントル対流の上で、解離ガスが徐々に発生貯留されるために、ガスの貯留形態が海のナマコのような広がりを持つものと考えられます。そのために、D〜E間に押し円錐が連続して並んだような形状になることが、A図ではなくB図のようなものになる原因ではないかと思います。

セミナー[1022]でも述べましたが、「死語」になってしまったのは、その後浅発地震に関しても、メカニズム解的表示(B図)で統一表示することが可能であるとして、メカニズム解方式で統一されてしまったことが原因だと思います。

浅発地震の「押し円錐」
深発地震の連続した「押し円錐」配列
しかし、これは地震時に起きる物理的現象から目を離させ、かえって真相を分からないものにしてしまう原因となっているように思えてしかたがありません。浅い地震の場合には(石本博士が見出した)「押し円錐理論」の方がはるかに地震現象の理解に役立つものであると思います。浅い地震と、深い地震とを統一して表記しようとしたことが、地震の真相を分からなくさせた原因であろうと思っています。