新・地震学セミナーからの学び
57 なぜマントルが固体であるという誤解が生じたのか
マントルは固体であるというのが定説であり、地震学者はそれを固く信じている。地震爆発説はそれを完全に否定しているので、地震学を学んだ方からは顰蹙を買いトンデモ理論扱いされることが多い。

ここで、地球誕生以来のマントルの経過推定の作業を行ってみると、つぎのようになる。

@地球はその始原においては内部まで完全に熔融状態であった。つまりマグマオーシャンという状態であり、生き物が生存できる環境ではなかった。
Aやがてマグマオーシャンの表面が冷えて固形化し、海洋も誕生し、植物や、動物が生存できる環境に変化した。
B表面は固形化したが、内部は依然として熔融したままであった。

ここまでは誰にも異存は無いと思う。さて、ここから、

Cマグマオーシャンの表面だけではなく、内部までも、(冷却されたわけではないが、)2900kmまでは固体状態になった。
という常識では考えられないような飛躍した学説が信じられるようになったのは、何故であろうか。
マグマ熔融論を持ち出すと、判を押したように出てくるのが、
「地震波の走時表を見ろ・・・理論と観測が一致している。マントル固体論は完全に証明済みである。なにを寝ぼけたことを言っているのか・・・・。」

という反論である。マグマが固体であることは、固体中しか伝播しない地震の横波(S波)が理論通りの伝播経路を示すことで、完全に証明された“科学的事実”である・・・ということらしい。

しかし、よく、吟味してみると、“科学的事実”には怪しげな点が出てくるのである。

まず、最初に地震波の経路の問題を扱ったのは、グーテンベルグという近代地震学の創始者とも言うべき地震学の泰斗である。日本での地震学に関する権威者でもあった竹内均・元ニュートン編集長の書籍「地震の科学」(NHKブックス)から彼の研究を学んでみよう。

「 縦波(P波)に対する影の領域の存在その他から、一九一三年に核の存在を最初に確立したのが、当時ドイツにいたグーテンベルクである。彼の考えが第27図に示してある。第27図の点は震源を示し、それを取り巻く同心円状の点線が縦波のフロント(波面)を示している。たとえば5としるした波面は、地震がおこってから五分後の波のフロントを示している。この図を見ると、地震がおこってから約二〇分後に、地球を通りぬけた縦波が地球の裏側まで到達していることがわかる。波面に垂直に実線で描いたのが波線あるいは射線である。第27図に示した波線FAは核の表面をすれすれにかすめて通っている。これより少し深くもぐった波線は、核の表面で屈折して点へ現われている。
このようにしての間に縦波の影の領域ができることが理解される
」(「地震の科学」p72より)

先にも述べたように、(影の領域には)縦波が認められない。しかしよく目を凝らしてみると、わずかではあるが縦波が認められる。最初の間は、この小さい振幅の縦波は回折波であると考えられていた。(中略)これはとても回折波で説明されるようなものではない。
 この困難を解決するために、デンマークの女流地震学者レーマンが、一九三六年に核の中に核があるという考えを提案した。この核の中の核は内核とよばれている。影の部分へまわりこむ縦波は、この内核によって屈折した波だというのがレーマンの考えである。現在では彼女の考えが広く認められている。さらに最近では、内核は固体であると考えられている。もしそうだとすると、地球は固体(地殻およびマントル)と固体(内核)の間にサンドイッチされた流体(核)からできていることになる
。」(「地震の科学」p74より)

さて、疑問点を列記してみます。

@ マントル固体仮説:右に示した27図ではP波が震源Fから同心円状に広がっていくように描かれています。これは外核までのマントルが固体であるということが前提になっています。液体であればこのような伝播経路はとりません。マントルが固体であることはこの時点では、不明のはずで、単なる仮説にしかすぎません。

A 影のゾーンは存在しない:影のゾーンを説明するために外核の存在を仮定していますが、この部分にも微弱ながらP波が到達していることが、わかっています。したがって影のゾーンは存在せず、外核を仮定する必要は無いはずです。
それなのに、この部分(A-B)に到達する波を説明するために、さらに内核の存在まで仮定する(レーマンの仮説)のはおかしいと思います。影のゾーンという表現は、現在では使用されていません。

では何故マントルは固体であると考えているのでしょうか。固体でないとグーテンベルグの行った経路計算が出来ないからという理由も有りますが、彼の計算による結果が、観測値とよく一致するという理由からです。

然し、これにも多くの疑問点があります。続いて「地震の科学」から、抜粋しながら学んでみます。

27図のような地震波の経路を計算するには、当然のことですが、各深さでの速度分布が分からないと計算が出来ません。

ある一つのことを仮定しなければならない。それは縦波や横波が地球の表面からの深さだけの関数であるということである。(中略)
ともかく走時曲線から地球内部の各深さにおける縦波と横波の速度分布を求めることが問題になる。
実は、これはかなり難しい問題で、数学的にいえば積分方程式という方程式を解かねばならない。この問題が難しくなる一つの原因は、ある震央距離のところに現れる縦波や横波が地球内部のどれだけの深さまでもぐったかが、前もって分からないということである。第27図には、各震央距離のところに現れる縦波が地球内部のどれだけの深さまでもぐったかが描かれている。しかしこの図は、実はこれから述べる地球内部の各深さにおける縦波の速度分布が分かってから描いた図である。縦波の速度分布を求める前にこのような図が描かれるわけではない。問題が難しくなるもう一つの原因は、ある特定の深さのところを伝わるその瞬間の速度を求めなければならないということである。
」(「地震の科学」p75より)

ここでも疑問点を記してみます。

B 経路と速度は前もっては分からない:地震波がどれだけの深さまでもぐったかを前もって分からない・・・つまりどこを通っているのかはっきりしないのに、経路の仮定やら、マントルは固体であるという仮定、速度分布は深さの関数になるという仮定などを前提にして、観測値と一致するように地球内部の物理量を決める・・・・、これがインヴァージョン法の原理です。しかし、マントルが液体であれば伝播経路は全く変わりますし、深さの関数ではないかもしれません。
前もっては分からない経路と速度を仮定した上で、伝播時間のトータルを実測値に合わせているだけなのです。
仮定の上に仮定を重ねて、コンピューターで強引に計算するやり方で本当に正しいことが分かるのでしょうか。
27図のような経路を通っていないとすれば、現在の難解な地震学は全く破綻してしまいます。


以上のように仮定を重ねた上で、強引にコンピューターで計算させたのが、図28のような深さの関数として知られている地震波の速度分布です。

この速度分布を用いて、マントル固体仮説の元で走時表を作ってみると、計算値と実測値が非常によく一致するというわけです。計算値を理論値と考えている人がありますが、そうではありません。仮定に仮定を重ねて計算したものに過ぎません。

その実測値の認定方法に疑問があるという話は、ニューオフィス53の地震波の伝播経路(走時曲線の考察)
に述べてあります。

つまり、マントルが固体であって、実測の走時と、理論走時が一致するという視点には大いに疑問があるということです。

下図に示すような地震波形からPPとかPKIKPとかSSという波の到達をどうやって判定できるのでしょうか。「理論走時」を観ながら【恣意的】に判定する・・・ということが行われているのではないでしょうか。

第28図 地震波速度分布
http://www.gps.caltech.edu/~polet/recofd.htmlより
セミナー[1020] にも紹介した地震波形
これからPPとかSSとか判定できるのだろうか
地震波は、ニューオフィス8の地震波はマントル内部を伝播するのではない
に示したように、二層構造の地殻内部を伝播しているのではないかと考えています。したがって走時表も全く違ったものになるのではないかと思います。

冷却されていないマグマオーシャンの一部である地球内部が、固体のマントルであるとか、また、液体の外核、固体の内核という構成になっているというのは、直感的におかしいと感じます。地殻の下部は溶融したマントルであると思います。

地震波の伝播経路に関してはセミナー[1314][1315]に最新の考え方が示してあります。(2007,9,16)

・マントル(二層構造の地殻の下部)が熔融していることについては「マントル熔融論の証明」(2009,10,09)を参照してください。


マントル熔融論、S波の伝播問題、レオロジー等に関する最新の見解は [2339]、[2341]を参照してください。